愛のち晴れ 海上自衛官の一途愛が雨女を幸せにするまで
 
「悪かったよ。この話は、また今度な」
「いや、中途半端にお預けされる俺の気持ちはどうなるよ!?」

 年甲斐もなく押し問答をしていたら──。

「なんだ、騒がしいと思ったらお前たちか」

 不意に背後から声が響いて、俺たちは示し合わせたように動きを止めた。
 背筋を伸ばして振り返ると、そこには上官の岩下(いわした)二等海佐が立っていた。
 笑っているような、怒っているような、絶妙な表情だ。岩下二佐は若い隊員のみならず、ベテラン上官からも絶大な信頼を寄せられている人だ。

「お前たち、昼休憩だからってあまり盛り上がるなよ」
「す、すみません! 今、ちょっと、気象の話を……」

 村井があわてて言い訳を試みたけれど、岩下二佐の眉がぴくりと動く。

「気象? ほう、そうなのか、水瀬」
「……すみません。気象現象の因果関係について、つい議論が白熱してしまいました」

 俺は肩をすくめるしかなかった。大事な仕事を言い訳に使うなんて、やはり自分はまだ半人前だ。

「まあ、休憩中は騒ぎすぎなければ咎めはしない。午後は頭を切り替えて臨めよ」
「了解しました!」

 俺と村井は声を揃えて岩下二佐に敬礼した。
 すると岩下二佐はふっと鼻で笑ったあと、俺たちを静かに見やる。

「お前たちも身を固めて家庭を持てば、ひと皮むけるかもしれないな」

 先ほどの会話は聞こえていたぞと、暗に言われているようだった。
 そうでなければ、まさか上官が誰かを紹介すると言いだすパターンか。
 つい思い出してしまうのは、以前所属していた基地の上官に言われて参加した、自衛官の婚活パーティーのことだ。
 当日、気乗りしないままに出かけて、流れに任せて簡単な自己紹介をして、当たり障りのない会話をして笑顔を貼りつけて──。
 あれは完全に場違いだった。そもそも本気で結婚相手を探しに来ていた人たちに対して失礼だ。
 当時の俺はまだ気象予報士の資格を取る前だったこともあり、仕事と勉強以外に時間を割くことをもったいなく感じていた。
 パーティーに参加するように勧めた上官は、そういう俺を危うく思って息抜きをさせるつもりだったのかもしれないけれど。

 そこまで考えたところで、また陽花のことが頭をよぎった。
 漫画家という夢を叶えるために一途に取り組む陽花の姿は、当時の俺と似ているから放っておけない気持ちになるのかもしれない。

 
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