愛のち晴れ 海上自衛官の一途愛が雨女を幸せにするまで
「こちらこそ……右も左もわからない私に、根気強く付き合ってくださって、本当にありがとうございました」
電話越しでは見えないとわかっていても、自然と頭を下げていた。
顔を上げた私は胸に手を当て、大きく息を吸う。
《それではまた、ご連絡させていただきますね》
「はい。よろしくお願いします」
通話が終わったら一気に力が抜けて、テラス席の椅子に腰を下ろしてしまった。
重光さんは今頃、賄いの準備をしてくれているだろう。たった今担当編集さんからこんな電話がかかってきたと伝えたら、すごく喜んでくれるに違いない。
奥さんの祥子さんも、きっと同じだ。それに──もしも生きていたら、お母さんも泣いて喜んでくれただろうな。
ふと見上げた秋の空には、太陽が明るく輝いていた。
今は亡き母が見守ってくれているような気がして、目の奥が熱くなる。
……なんて、感傷に浸ってばかりはいられない。ディナータイムの準備もあるし、戻って重光さんの賄いを食べよう。
気持ちを切り替えた私が立ち上がった瞬間、手の中のスマホがもう一度震えた。
見るとメッセージが一件届いている。送り主は航さんで、今夜の重光さんの誕生日パーティーに関することが書かれていた。
【仕事が終わり次第、予定どおりそちらに向かう】
短く簡潔なその一文に、航さんらしい律儀さが滲んでいて、自然と笑みがこぼれてしまった。
今回、担当編集さんにネームを褒めてもらえたのは、航さんのおかげだとも思っている。航さんと出かけた日の夜、なぜだか今ならいいものが描けるような気がして、私はペンを手に取った。
そのまま感情に身を任せてひたすらネームと向き合い、気がつくと夜が明け、朝を迎えていた。
結局その日は一睡もせずにシーガーデンに出勤したけれど、不思議と体は軽くて、心も雨上がりの空のように晴れていた。
久しぶりに納得いくものが描けた気がして嬉しかった。
でも、重光さんには、『ゾンビみたいな顔してるぞ』って笑われたんだよね。
そうしてその後、ブラッシュアップしたネームを担当編集さんに送った。
結果は、先ほどの電話のとおり。あの日、航さんとふたりで出かけられたことが、たしかに今につながっている。