愛のち晴れ 海上自衛官の一途愛が雨女を幸せにするまで
「本当は手伝いに行くべきだったのに、すみません」
私が謝ると、祥子さんは「何言ってるのよ」と言って首を横に振る。
「陽花ちゃんは、私の代わりにシーガーデンに出ずっぱりなんだから。これくらいさせてもらわなきゃ。それに、来るときには航くんが迎えに来てくれたし……ほんと、ふたりには感謝しかないわ」
そう言うと祥子さんは、やわらかく目を細めた。
航さんは腰を痛めている祥子さんを気遣って、仕事終わりに車で迎えに行ってくれたのだ。おかげで私も安心して、ふたりの到着を待つことができた。
「祥子さん、その後、腰の調子はどうですか?」
「もう、だいぶいいわ。だから来週には仕事にも戻れそうよ」
自分の腰をポンと叩いた祥子さんは、太陽みたいな笑みを浮かべた。
思わず「よかったです」と答えて笑みをこぼす。常連さんたちも祥子さんを心配していたし、元気な姿を見たらきっと喜んでくれるはず。
「航、陽花ちゃん。それに祥子も、俺のために本当にありがとな!」
【本日の主役】と書かれたタスキをかけた重光さんが、感極まった様子でお礼を言う。
「はぁ、それにしても、俺ももう六十か〜」
「本当は、赤いちゃんちゃんこを用意しようか迷ったんだけどさ。陽花が、それはやめたほうがいいって言ったんだ」
「えー! 陽花ちゃん、どうしてだ!?」
元来、還暦のお祝いでは、赤いちゃんちゃんこを着るという風習がある。それは六十年で干支が一巡し、〝赤ちゃんに戻る〟という意味合いで、魔除けや健康長寿を祈って赤い衣装を身に着けるのだとか。
だから今日のパーティーの準備をしていく中で、航さんに『赤いちゃんちゃんこを用意するか?』って提案されたんだけど……。
「重光さん、〝今日だけで終わりなのはもったいないから、これは明日からお店に飾る!〟って言いそうですし」
思わず苦笑いをこぼすと、重光さんが「なんでお店に飾っちゃダメなの!?」と、目を丸くした。
「シーガーデンに赤いちゃんちゃんこって、絶対に合いませんよ」
「そりゃそうよ! 陽花ちゃん、止めてくれてありがとう〜」
「陽花の言うとおりにして正解だったな」
店内に明るい声が響く。みんなの笑顔を見ていたら幸せな気持ちになって、私まで一緒に笑っていた。
「じつは、ふたりに渡したい物があるんだ」
しばらくして、切り出したのは航さんだ。渡したい物とは、もちろんアレのことだろう。
私たちは目配せをすると、カウンターの奥に置いておいた紙袋を手に取った。