愛のち晴れ 海上自衛官の一途愛が雨女を幸せにするまで
 
「わ、航さんが濡れちゃいます。それに、私も傘を持ってきているので平気です」
「車までは、すぐだから」

 航さんは私の肩を抱き寄せたまま、足をシーガーデンの駐車場へと向けた。
 駐車場には、車が一台止まっている。艶やかな黒の大型SUVだ。無骨なシルエットと堂々とした佇まいが、どこか彼自身の雰囲気と重なった。

「陽花、乗って」

 航さんは傘を広げたまま、助手席のドアを開けてくれた。
 お言葉に甘えて車内に乗り込むと、静かで洗練された空間が広がっていて感動する。
 すごい、カッコいい。
 けれど同時に、持ち主である航さんの香りに全身が包まれて、なんだかソワソワしてしまった。
 運転席側に回り込み、傘を閉じて車に乗り込んだ航さんを見たら、余計に心拍数が上がっていく。

「陽花の家、海沿いを西に走っていく感じでいい?」

 雨のせいでわずかに濡れた前髪をかき上げながら、航さんが車のエンジンをかけた。

「はい、そうです。遠回りになってしまうのに、送っていただいてすみません」

 私は必死に平静を装いながら、頭を下げた。
 じつはパーティーが終わったあと、私はひとりで歩いて帰る予定だったのだ。
 ところがそれを知った三人に猛反対されて、結局、航さんに家まで送り届けてもらうことになった。

「祥子さん、帰りは重光さんと一緒だし。陽花は、最初から俺が送るつもりだったから。そもそもこの時間に歩いて帰るとか、危ないから絶対にやめたほうがいい」

 諭すように言われて、思わず肩をすくめた。

「はい、これからは気をつけます。本当にありがとうございます」

 恐縮すると、航さんはハンドルを握ったまま、なぜか無言で私の顔を見つめてくる。
 どうしたんだろう。私の顔に、何かついてるのかな。

「本当は、毎日俺が送り届けてあげられたらいいんだけど」
「え……」
「でも、現実的には難しいから、できる限り自衛してほしい」

 航さんは短く息を吐き、ふたたび前髪をかき上げた。
 対する私はなんと返事をすればいいかわからなくなって、変な汗をかいてしまった。
 今が夜でよかった。昼間だったら、顔が真っ赤になっていることがバレてしまっていただろう。
 と、固まる私をよそに、航さんがもう一度口を開く。

 
< 56 / 64 >

この作品をシェア

pagetop