愛のち晴れ 海上自衛官の一途愛が雨女を幸せにするまで
 

「い、いえ、なんでもありません」

 あわてて視線をそらした私は、膝の上に置いた手に目を落とした。また、ブレスレットが目に入る。
 と、不意に運転席から伸びてきた手が、私の手に優しく触れた。

「それ、つけてくれてるんだな」

 彼が撫でたのは、ブレスレットについている花弁のチャームだった。

「つけてくれて嬉しいよ。やっぱり、それ……陽花によく似合ってる」

 艶のある甘い声で言われて、心臓が早鐘を打つように高鳴り始めた。
 胸が苦しくなった私はふたたび顔を上げると、誘われるように視線を横に滑らせる。
 やわらかくほほ笑む航さんと目が合って、鼓動がドキリと強く跳ねた。
 琥珀色の瞳が、私だけを映している。吸い込まれるようにその目を見つめていたら、触れ合っていた手を、そっと優しく掴まれた。

「……陽花」

 色気を含んだ声で呼ばれて、体の奥が熱く甘く疼いてしまう。運転席と助手席の、わずかに空いた距離がもどかしくて、じれったい。

「航、さん」

 小さな声で応えた私は、大きな手を静かに握り返した。
 その瞬間、航さんの目が獲物を見つけた獣のように(すが)められ、繋いだ手に力がこもった。
 そのままゆっくりと航さんの顔が近づいてきて──私たちは引き寄せ合うように、唇と唇を重ねた。
 お互いの吐息がぶつかり、何も考えられなくなってしまう。
 雨を流すワイパーだけが忙しなく動き、熱気が窓を曇らせていた。

 
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