愛のち晴れ 海上自衛官の一途愛が雨女を幸せにするまで
「陽花……」
それは、一瞬にも永遠にも感じられるような、切なく甘い、情熱的なキスだった。
と、その儚いひとときを、突然のクラクションが容赦なく引き裂く。
「──っ!」
けたたましい音に驚いて肩を跳ねさせた私は、咄嗟に航さんから顔を離した。
反射的に振り返ると、後ろに止まっていた車のヘッドライトが、こちらを眩しく照らしていた。
「……信号、いつの間にか青になってたな」
航さんは困り顔で笑って、前を向いた。後続車のヘッドライトに照らされて見えた彼の耳の先は、赤く染まっているような気がする。
私の顔も、燃えているみたいに熱い。というか私、今、航さんと──。
考え終わるより先に、車が動きだした。ワイパーがリズムを刻む音と、胸の鼓動音が重なって、まるで自分の心臓を眺めているような気持ちになった。
それからしばらくの間は、車内に無言の時間が続いた。
お互いに、キスのことには触れられないまま。
不思議と気まずさはなかったけれど、私も航さんも、話し始めるタイミングを探していたように思う。
「あっ、次の信号を右に入ったところにある左手の家が、私の家です」
そのひと言が沈黙を破ると、航さんが少しだけ顔を向けて、頷いた。
「了解、ありがとう。じゃあもう、すぐそこだな」
その言葉のとおり、ふたりきりの甘い時間は、もうすぐ終わってしまう。
ゆっくりと進んだ車は信号の手前で減速し、指示どおりに私の家の前で止まった。
すると、私の家を見た航さんがつぶやく。
「陽花、実家暮らしなんだな」
二十七歳の独身女性が一軒家に住んでいるとなれば、そう思うのが普通だろう。
曖昧な笑みを浮かべた私は、少し考えてから首を横に振った。