愛のち晴れ 海上自衛官の一途愛が雨女を幸せにするまで
「ここは、母の実家なんです。でも今は、私ひとりでこの家に住んでます」
「陽花ひとりで?」
「はい。うちは、私が中学生のときに両親が離婚していて。母と私はもともと県外にふたりで住んでいたんですけど、私が就職して都内でひとり暮らしを始めたのを機に、母だけがこの家に戻りました」
もともとこの家に住んでいた祖父母は、私が大学生のときにそれぞれ病気で亡くなっていた。だから、その後はしばらく空き家状態だった家を、ひとり娘だった母が継いだ形だ。
「その母も、三年前に病気で亡くなってしまって。一時はこの家を売ることも考えたんですけど、なんとなく寂しい気もして、結局移り住むことにしたんです」
母を亡くしたショックもあり、当時の私には、母の荷物や祖父母の遺品を整理する気力がなかった。
でも、残った荷物を片づけない限り、家を売りに出すことはできない。
私は考えた末に、それならいっそ、ここに移り住んでしまえばいいと思った。そうすれば家賃もかからないし、節約にもなる。
そして時間をかけて、荷物と心の整理をしようと決めた。引っ越しで仕事は辞めることになったけれど、職探しはここでもできるからと前向きに決断した。
「お父さんは?」
事情を知った航さんに、遠慮がちに尋ねられる。
私は動揺を悟られぬように笑みを浮かべると、首を横に振った。
「父とは離婚後、一度も会っていません」
父の話題を拒絶するように端的に言って、これから帰る家に視線を移す。
「ここは、元は祖父母の家なので、外観は趣ある感じなんですけど。母が譲り受けてからリフォームしたので、中はすごく綺麗なんですよ」
「そっか……」
「はい。だけど、一軒家は、やっぱりひとりで住むには広すぎて──」
そのときだ。ふたたび、後続車が近づいてくるライトが見えた。
先ほどの車とは違うけれど、ここは一方通行だし、このまま止まっていたらまたクラクションを鳴らされるかもしれない。
早く降りなきゃ!
私は、急いでシートベルトを外して車から降りる準備をした。
ところがそれを見た航さんは、うちの敷地内の駐車スペースを視線で指した。