愛のち晴れ 海上自衛官の一途愛が雨女を幸せにするまで
 
「まぁ、たしかに、こんなに大きな家にひとりは贅沢だよな」

 そう言うと航さんは、不意に私の頭に手を伸ばした。
 そして髪に指を通すと、とても優しく滑らせる。その手の温度と甘い眼差しに、私は先ほどしたキスのことを思い出してしまった。

「俺は、陽花がこの家は広すぎて、ひとりでいるのは寂しいって言うのかなって思ったんだけど」

「また、予想が外れた」と言葉を続けた彼は、慈しむように私の頭を撫でてくれた。
 ふたたび心臓が甘く高鳴りだして、指先に痺れるような熱がたまっていく。
 航さんは、どういうつもりで私にキスをしたんだろう。
 彼の人間性を疑っているわけじゃない。まだ出会って間もないけれど、彼が誠実な男性(ひと)だということはわかっているつもりだ。
 きっと航さんは、人の心を(もてあそ)んだり、むやみに傷つけるようなことはしない。
 でも、だとすれば、航さんも私のことを……?
 もしも、彼も私と同じ気持ちでいてくれるなら、とても嬉しいし、幸せだ。
 だけど、そう思うのに、心の奥に残る傷が疼いてしまった。
 それは亮太につけられた傷と、それよりも、もっと以前につけられたもので──。

「陽花」

 琥珀色の瞳を見つめていたら、私の想いを悟ったように航さんが笑みを消した。
 髪を撫でていた手を止めた彼は、その手をブレスレットがつけられている私の手にそっと重ねる。

「陽花に、言いたいことがあるんだ」

 覚悟を決めた様子の彼は、一瞬目を伏せてから短く息を吐くと、改めてゆっくりと視線を上げた。
 決意のこもった目が、私だけを真っすぐに見つめている。
 思わずごくりと喉を鳴らして、息をのむ。

「俺──」

 と、彼がふたたび口を開いたとき、突如、私の鞄の中でスマホが震えた。

 
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