愛のち晴れ 海上自衛官の一途愛が雨女を幸せにするまで

「見てのとおりちゃんと動くし、本当に気にしないでください」

 ヒビ割れた画面には、八時四十五分という時刻が表示されていた。
 そろそろ行かないと、レストランカフェの出勤時間に遅れてしまう。

「それじゃあ、失礼します」

 そうして私は回れ右をして、その場を立ち去ろうとした。

「待って!」

 ところが次の瞬間、彼に腕を掴まれ呼び止められた。
 踏み出そうとした足を止めて振り返ると、綺麗な顔が思いのほか近くにあって心臓がドキリと跳ねる。

「念のため、連絡先を交換しませんか」
「え?」
「君の気が変わるかもしれないし、自分としてもそのほうが安心だから」

 そのほうが安心──あとあと私の気が変わって、警察に被害届を出される可能性もあるから心配してるとか?

「気は変わらないから、大丈夫です。このスマホも、もう何年も使っているものですし……そろそろ買い替えようと思っていたところだったので」

 本当は、一カ月前に買い替えたばかりの新しいスマホだ。
 だけどこれ以上、彼に気を使わせるのは申し訳なくて、咄嗟(とっさ)にそう言い添えた。
 琥珀を溶かしたような瞳は、今、私だけを映している。
 二の腕を掴んでいる彼の手は、日差しに負けないくらい熱くて大きかった。

「本当に大丈夫なので、安心してください」

 言いながら私は、無意識のうちに掴まれている腕へと視線を滑らせた。

「あっ、ごめん」

 すると視線に気づいた彼が、すぐに手を離して肩の高さでハンズアップする。

「他意はない」

 実直に言われて、私は思わずきょとんとしたあと、彼の顔をまじまじと眺めてしまった。
 すごく真剣な表情をしている。
 彼の容姿が整っているのも相まって、まるでドラマのワンシーンのようにも見えた。

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