王子姫は旦那様に可愛いと言われたい

「……っ」

 一応、ワンピースは着てみたものの、似合っている自信はまったくなかった。

 何も言えずに俯いていると、先に口を開いたのは真尋だった。

「へえ……似合ってるじゃん」

「う、ウソ。冗談はいいから」

「そんな下らないウソ言うかよ」

 そこまで話していると、先ほど試着を勧めてくれた店員歩いていた。

「お疲れ様でした。サイズ感とか、いかがでしたか?」

「え、えーっと……サイズはぴったりでしたけど……」

「これ、めちゃくちゃ似合ってますよね?」

「!?」

 私が断り切るより先に、真尋は店員に言った。

 もちろん、店員がうなずかないはずがない。

「はい、スカートの丈感もぴったりで、とってもお似合いですよ! 今日お持ちのバッグにもぴったりだと思います」

「ですよね。じゃあ、購入で」

「ちょ……!」

「ありがとうございます、新品でご用意しますね!」

 なんと真尋は、私の意見そっちのけでワンピースを即決してしまったのだ。

「ま、真尋……ここのブランド、高いから……」

「誕生日プレゼントだからいいだろ?」

「っ、そんな……」

「お待たせしました、ワンピースご購入のお客様、お会計レジにてお伺いします!」

「じゃあ、そういうことで。会計しとくから、着替えといて」

「っ、な……」

 私が抵抗するより先に、真尋はシャッとカーテンを閉めた。

(本当に、変なところで強引なんだから……)

 ため息を吐きながら、ちらりと試着室の鏡に目を向ける。

 鏡に映るのは、人生で着たことがないような可愛らしいワンピースを着る私。

 スカート丈も袖口の長さもちょうど良くて、身体にフィットしている。

 似合っているかはさておき、今まで経験したことのない胸の高鳴りを感じていた。

(これが……本当に私……?)

 ほんの少しだけれども、可愛いに近づけたような気がした。


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