王子姫は旦那様に可愛いと言われたい
「可愛い……っ、あ、これも素敵……!」

 パールやビジューがたくさん付いたドレスを見て、私は興奮のあまり独り言が止まらなくなっていた。

 やっぱり一番可愛いのは、童話のお姫様が着ているようなプリンセスラインのドレス。どれもこれも、可愛らしいドレスばっかりだった。

(もし……こんなドレスが着れたなら……)

 と思いかけたその時、ドレスルームの扉が開く音がした。

「ウェディングドレスのお部屋は、こちらです」

「わぁ、可愛い~!」

 聞こえてきたのは、聞き覚えのある甘ったるい声。私は反射的に、身体を強ばらせていた。

「それでは、一旦私は失礼します。何かあれば、呼び鈴でお呼びください」

「はあい、ありがとうございます」

 おそるおそる振り向くと、そこには顔を合わせたくない「彼女」がいた。

 栗毛色の髪をウェーブ巻きにして、フェミニンなカットソーとスカートを着た彼女。

 月岡(つきおか)ゆま。大学時代の、部活の後輩だ。

「あれぇ、桜司先輩じゃないですかぁ、お久しぶりです!」

「つ、月岡さん……久しぶり」

 他人のフリをする間もなく、ゆまは私に声をかけてきた。

 昔から、私は彼女のことが苦手だった。

 怪我を理由に陸上を高校で引退した私は、どうしても陸上に携わりたくて、大学では陸上部のマネージャーをしていた。ゆまも同じく、陸上部のマネージャーだった。

 しかし、ゆまはマネージャーの仕事をサボってばかりの子で、女子全員から煙たがられていた。

 そんな彼女が退部に追いやられなかったのは、ゆまが男子部員から人気だったからである。

 甘い声に、上目遣い。そして、可愛らしい仕草と顔立ち。ゆまは男子ウケする要素を集めたような存在なのだ。
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