王子姫は旦那様に可愛いと言われたい
 落とされたキスは深いもので、舌先から真尋の温もりが、じわりじわりと自分の中に広がっていく。

「んっ……」

 その口付けは、お風呂でもなく夜ご飯でもなく、彼が‘‘私’’を求めているという意思表示だった。

「……っ、待って、お風呂も入ってないのに……っ、せめてシャワーぐらいは……」

「無理。そんなの待てない」

「きゃっ……!」

 ひょいっと私を横抱きにして、真尋はバスルームへと歩き始めた。

「ま、真尋……?」

「風呂、せっかくだから一緒に入ろうか」

「なっ……!?」

 いたずらっぽく笑う真尋の顔を見て、恥ずかしさのあまり赤面する。しかし、彼が冗談だと言うことはなかった。

 こんなふうに私は、いつも知らぬ間に真尋のペースに呑まれてしまうのだ。

 とはいえ、彼に驚かされたりドキドキさせられたりするのは、嫌いではない。これがいわゆる、惚れた弱みというものなのだろう。

(お姫様抱っこされるのなんて……初めてかも)

 密かに胸を高鳴らせていると、廊下を歩きながら真尋はこう言った。

「思ったことが全部顔に出て……本当に面白いヤツ」

「……っ、もう、真尋ってば」

(また、言ってくれなかった)

 面白い。それは紛れもない褒め言葉だ。

 しかし、可愛いと言われたならば、どれほど嬉しいだろう。内心私は、そう思わずにはいられなかった。
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