わななく羽
ゆっくり、ゆっくり、確実にホールドに足をかけ、次のホールドをつかみ、上を目指す。
さっき練習で小さな壁を登ったのなんて、本当に遊びの範囲だったんだな。崖登りのスポーツと言うより自分との闘いだ。これ。
(弱い自分を振り切るための孤独な闘い)
息が切れる。肩が上がる。綺麗に口紅を塗った唇を噛み、それから歯を食いしばる。
欲しいんだ。(きみと別れる勇気が)
欲しいんだ。(きみに負けない心が)
誰に対しても丁寧にふわふわ接するのって、なかなかできることではない。
人間、誰しも苛立ったり、不意に感情がぽろりと出てしまうことがあるのに、彼はいつも丁寧でふわふわだ。
(相手に期待していないんだろうけど)
私、まだ、きみに負けてる。人間としても、社会人としても、同期としても。
(落ちた)
一瞬の気のゆるみが命取りになった。私はぶらーんと宙にぶらさがった。(魚の干物か)
彼が私の名を呼び駆け寄ってくる。「大丈夫!?」と今まで聞いたことのないような真剣な声がかかる。
(あ)
聞いたことがないわけじゃない。彼はいつも聞いてくれる。情事のあとで「大丈夫?」と。
(余裕めいたその一言がきらいだった)
トレーナーさんと彼に手伝われて崖から降りる。みっともない。失敗した。
だが、彼は清潔なタオルで私の髪を包み、優しく拭いてくれた。最高級のジュエリーに触れるように。
「ねぇ」
「ん?」
「きみ、私に惚れてくれない?」
さっき練習で小さな壁を登ったのなんて、本当に遊びの範囲だったんだな。崖登りのスポーツと言うより自分との闘いだ。これ。
(弱い自分を振り切るための孤独な闘い)
息が切れる。肩が上がる。綺麗に口紅を塗った唇を噛み、それから歯を食いしばる。
欲しいんだ。(きみと別れる勇気が)
欲しいんだ。(きみに負けない心が)
誰に対しても丁寧にふわふわ接するのって、なかなかできることではない。
人間、誰しも苛立ったり、不意に感情がぽろりと出てしまうことがあるのに、彼はいつも丁寧でふわふわだ。
(相手に期待していないんだろうけど)
私、まだ、きみに負けてる。人間としても、社会人としても、同期としても。
(落ちた)
一瞬の気のゆるみが命取りになった。私はぶらーんと宙にぶらさがった。(魚の干物か)
彼が私の名を呼び駆け寄ってくる。「大丈夫!?」と今まで聞いたことのないような真剣な声がかかる。
(あ)
聞いたことがないわけじゃない。彼はいつも聞いてくれる。情事のあとで「大丈夫?」と。
(余裕めいたその一言がきらいだった)
トレーナーさんと彼に手伝われて崖から降りる。みっともない。失敗した。
だが、彼は清潔なタオルで私の髪を包み、優しく拭いてくれた。最高級のジュエリーに触れるように。
「ねぇ」
「ん?」
「きみ、私に惚れてくれない?」