【マンガシナリオです】クールな彼の無自覚な求愛

一歩近づく

○夕方、駅から渉のアパートまでの道
紗矢をおんぶして歩く渉。紗矢は寝ている。

○渉のアパート、間取り1K
渉が一人暮らしするアパートに着き、自分のベットに紗矢を寝かせる。
渉「…。」
紗矢の寝顔を見る渉。

1時間後。外は暗くなっている。ゆっくりと目を開けた紗矢は天井を見た。
紗矢(あれ、ここどこ…?私、電車から降りて…)
ふと横を見ると机に向かって何か書いている渉がいた。
紗矢(んんん!?)
ガバっ、勢いよく起き上がる。
渉「あ」
紗矢「…あの…私なんでここに…」
渉「電車でたまたま見かけて、倒れそうになったから、とりあえず休ませようと思って連れてきた。勝手なことしてごめん」
紗矢「そうだったんだ。ありがとう」
ちらっ。ドアの鍵部分アップ。
紗矢(ドアの鍵開けてくれてる…)
渉「はい」
コップに入れた水を差し出す。
紗矢「ありがとう」
部屋を軽く見渡す。インテリアにこだわりのある空間のショット。
紗矢(男子の部屋なのに綺麗でオシャレ)
渉「もう気分大丈夫?」
紗矢「あ、うん。ありがとね」

○玄関
紗矢「ほんとごめんね。お邪魔しました」
紗矢が靴を履いて出ようとすると、渉も靴を履く。
紗矢(ん?)
渉「送る」
紗矢「え、いいよいいよ。もう良くなったし」
ガチャ、鍵を閉めて、スタスタと歩き出す渉。
紗矢「…。」

○紗矢の家の前、夜
紗矢「わざわざありがとう!本当に助かったよ」
渉「…じゃ」
紗矢「あ、うん。おやすみ!」
(びっくりするほど塩対応だな。でも、助けてくれた上にわざわざ送ってくれたし、悪い奴じゃないよね)


次の日。
○大学、朝
門の近くでソワソワ立っている紗矢。手に紙袋を持っている。
紗矢(早起きしてお礼のクッキー焼いたけど…。そもそも今日朝から授業かな?手作りとか食べてくれる人かな?え、知り合って間もないのにこんなの渡したら引かれる!?)
紗矢が頭の中でごちゃごちゃ考えていると、渉の姿が見えた。
紗矢(あ!)
駆け寄る。
紗矢「おはよう!」
渉「…おはよ」
紗矢「あの、これ昨日のお礼…」
少し緊張しながら紙袋を差し出す。
紗矢「クッキー焼いたんだけど、手作りとか甘いもの苦手なら捨ててくれていいから」
渉「…苦手じゃない。ありがと」
表情は変わらず、受け取り再び歩く。
紗矢(良かった、もらってくれた)
ホッとした表情。


数日後。
○大学、外のベンチ、昼休み
ベンチに並んで座る紗矢と藤野。紗矢の膝にはお弁当、藤野もお弁当を手に持ち食べようとしている。
藤野「いっただきまーす!」
紗矢「どうぞ、召し上がれ」
(先輩にお願いされ、お弁当を作ってきた。いつも自分用に作っているから、2人分も大変さはさほど変わらない)
藤野「やっぱ、うめー!」
紗矢(先輩が私の手料理を食べるのは初めてではない)
「いいんですか?彼女さんに見られたら困るんじゃ」
藤野「あれ、言ってなかったっけ?この前、別れたんだよ」
紗矢「えっ、そうなんですか!?」
藤野「さすがに彼女いるのに他の女に弁当お願いしねーよ」
紗矢(たしかに)
成田「あれ!」
成田と渉が通りかかった。
藤野「おぉ、お疲れ」
成田「お疲れ様でーす。え、もしかして、一ノ瀬ちゃんにお弁当作ってもらったんですか?」
藤野「うん。いっちーは、料理もお菓子作りもめちゃくちゃうまいんだよ。クッキーとか店レベルだぞ?」
成田「へぇー。今度作ってもらおっかなぁ」
紗矢「そんな大したものじゃないよ」
チラッと渉を見た。話を聞くだけで、何も発していない。
紗矢(クッキー食べてくれたのかな…)

○電車内、夕方
電車の窓から外を眺める紗矢。窓に雨の雫がつく。
紗矢(あ、降り始めた)
電車を降り、改札口を抜けると小学生が傘がなくて困っていた。気付いた紗矢は話しかける。
紗矢「傘ないの?」
小学生「うん…」
紗矢「ならコレ使って」
自分の傘を渡す。
小学生「え、いいの?」
紗矢「返さなくていいからね。風邪ひかないように、気をつけて帰るんだよ」
小学生「お姉ちゃん、ありがとう!」
紗矢の傘を差し、帰って行く小学生の後ろ姿。手を振り見送る。
紗矢(思ったより降ってるなぁ。走っても結構濡れそう。うーん…)
渉「入る?」
紗矢「…え」
隣に傘を持った渉が現れた。傘を開き、外に出て雨の中から紗矢に言う。
渉「帰るんでしょ?」
紗矢「…ありがと」
少し照れながら傘の中に入る。

相合い傘で紗矢の家に向かう2人は無言。
紗矢(反対方向なのに、ほんと申し訳ない。…それにしても相合傘って、こんなに距離近いの!?)
渉の反対側の肩を見ると傘から少し出ている。
紗矢「あの、もっとそっちに傾けて大丈夫だよ」
渉「…じゃあ、もう少し寄って」
紗矢(え、もっと近寄るってこと?無理無理!)
立ち止まり、近寄るのを待っている渉。
紗矢(え、いいのかな)ドキドキ
恐る恐る傘を持つ渉の腕に軽くしがみつく。予想外の寄り方に少し驚く渉。
身を寄せ合い相合傘で歩く2人の後ろ姿。

紗矢の家の前に着いた。
紗矢「わざわざありがとう」
傘から出て軒下に立つ紗矢。
紗矢「また大学で」笑顔。
渉「言い忘れてたんだけど」
紗矢「?」
渉「クッキー美味しかった」
紗矢「え…」
渉「じゃ」
紗矢(ちゃんと食べてくれたんだ。…良かった)
「あのさっ!」
雨の中、振り返る渉。
紗矢「今日のお礼に…また何か作ってもいいかな?」緊張気味。
渉「…誰かに作ったことないやつがいい」
紗矢「…えっ」
渉「お疲れ」
渉帰って行く。後ろ姿を見つめる紗矢は頬が染まる。
紗矢(特別なことを言われた気がして、思わず嬉しくなってしまった。何考えてるか分かんないけど、仲良くなったらもっと色んな一面を知れるのかな)


6月、テスト明け
○講義室
夢「紗矢ちゃん、この後空いてる?」
紗矢「ごめん、今日は店の手伝いなの」
夢「そっか、じゃあまた今度だね」
紗矢「うん、ごめんね」

○大学内、門までの道
紗矢が歩いている。少し先に黒い筒状の図面ケースを肩にかけている渉を見つける。
紗矢(あ!)
タッタッタッ、駆け寄る。
紗矢「神崎!」
ゆっくり振り向く渉。
渉「あ…」
紗矢「お疲れ。あのさ、今日この後忙しかったりする?」
渉「いや、別に…」
紗矢「傘のお礼したいんだけど!」

○母の居酒屋、開店前
調理スペースで作業する紗矢と店内で座って待っている渉。母はまだ来ていない。
紗矢「お待たせ」
トレーに乗せ持ってくる。テーブルに置く。
渉「アイス?」
紗矢「アイスっていうよりシャーベットかな。こういう冷たくて溶けるスイーツを人にあげたことないなと思って」
渉「…食べていい?」
紗矢「ぜひ!」
渉「いただきます」
一口食べる渉。ドキドキしながら様子を見る紗矢。
渉「…うま」
パァッと明るい表情になる紗矢。
紗矢(良かったぁ)
黙々と食べ、すぐに食べ終わる。
渉「まだあったりする?」
紗矢「うん!」
急いでおかわりを取りに行く。
スプーンを片手に機嫌良さげに待つ渉の姿。

全て食べ終わった渉。
渉「ごちそうさまでした」
紗矢(全部食べてくれた…)
「お腹壊さないようにね」
渉「大丈夫」
渉は荷物を持ち、帰るためドアに向かう。
外に出て見送る紗矢。
紗矢「わざわざありがとう」笑顔。
紗矢をじっと見る渉。
紗矢(??)
渉「…また作って。じゃあ」
帰って行く。頬を赤くしながら手を振る紗矢。
紗矢(また…。深い意味はないと分かっていても少しニヤけてしまう。この夏の間に、また食べてもらえたらいいなぁ)
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