宵にかくして



……ああ、転校と入寮のこと、ちゃんと話しておけばよかったな。こんな形で、よりにもよって男装している時に再会するなんて、思ってもみなかった。


もうだめだ……って、ぎゅっと目を瞑りかけた、その時。

 

「……へえ、きみが、桜のお隣さん?」

「っ、ぇ、」
 

とろけるような愛想の良い笑みを浮かべたなぎ兄が、ゆっくりと距離を詰めてくる。


少しだけ首を傾げて顔をまじまじと覗き込むと、ふ、と溢れんばかりの笑みを浮かべて、……その瞳は笑っているようでいて、真意が全く読めない。


……これ、は、気づかれていないの?
なぎ兄の観察眼はとても鋭いし、誤魔化せるなんて思っていなかった……けど。
 



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