宵にかくして



……もうちょっとだけ、話していたかったなあ、なんて。


ドアを開けた宵宮さんは、外をぐるりと見回した後にちいさく頷くから、ありがとうございますの意味をこめて深く頭を下げる。


 
そのまま宵宮さんから背を向けて、……あ、と、伝えたいことがあったのを思い出して、再び振り返る。



「……宵宮さんがお隣でよかったです、今日はほんとうにありがとうございました……!」



……また明日、は、さすがに鬱陶しいかな。
ゆるんだ表情のまま告げて、今度こそ背を向けてドアを開ける。



ドアがぱたりと閉まる瞬間、─────やさしい温度が溶けた声で、……"咲菜"、って。



「また明日」


そう、やわらかく笑いかけてくれるから。







「っ、……ずるいなあ」


あの日の胸の高鳴りが蘇るみたいに、……こころの奥で甘やかな音が響いた。






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