宵にかくして



「よく分かんねーけど、離れられる方が苛つくから。……なるべく傍にいて」



甘やかな意味にもとれるそれに、一瞬どきっとしてしまったけど、……おそらくこれは、宵宮さんなりの親切なお気遣い。


遠回しに、“お隣に住んでもいいよ"って、言ってくれている……?


今日会ったばかりの私(しかも不気味)に隣に住むことを許可してくれるなんて、なんていいひとなんだろう……。


やさしいなあ、なんて、にこにこしてしまう私の頭を撫でながら、くすりと仄かに口角をあげる宵宮さん。その眼差しに、ふと、ゆるやかな熱が灯った気がして、なんとなく視線を囚われてしまう。



不意に、しなやかな指先がこちらに伸ばされる。
思わず固まってしまう私に、宵宮さんがゆっくりと口を開いた、─────……瞬間。




「っ、……電話?」


聞き馴染みのある電子音が静かな部屋に響く。
あわててスマホを見れば、画面には"なぎ兄"の文字。



もう、今日はとことんタイミングが……!


不定期にかかってくるなぎ兄からの電話。ごくまれにかや兄からもかかってくることはあるけど、私の着信欄はほぼなぎ兄が占めているのだ。



いつもはすぐ出るから、出ないと心配をかけてしまうかもしれない……とおそるおそる宵宮さんを見上げれば、ふっとやさしく細められた瞳と目が合って。





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