宵にかくして



「ぱ、パン、美味しそうだなあって……!」
 

……ほんとうは、これから何か用事があるのかな?って思って見ていただけだけど。そんな事を聞いたらまた鬱陶しがられそうだから、へらりと笑ってごまかせば。



「……やんないよ?」


警戒心に溢れたジト目でささっとパンを隠した秋月くんは、すたすたと教室を出て行ってしまった。



……私、そんなに食い意地の張った顔してたのかな?
ひそかにショックを受けていると、後ろから不意にぽんっと肩を叩かれた。


肩を揺らしながらも振り返れば、にこにこと明るい笑みを浮かべながらこちらを見つめる女の子ふたり、……誰、だろう?


おそらくクラスメイトだと思うけど、まだ全員の名前は覚えられてない……!



「蒼唯さん、だよね?」

「っはい……えっと、おふたりは……?」

「わあ、やっぱり声かわいい〜っ!昨日からずっと話して見たいなって思ってたの……!」



突然ぎゅうっと抱きしめられて、ひえ、と声が漏れる。ふわりと鼻腔をくすぐるのは、華やかなフローラルな香り。


かちこちに固まってしまう私に、後ろからもうひとりの女の子がやれやれという表情で近づいてくる。



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