フィクションですよね⁉︎〜妄想女子の初恋事情〜
『妄想癖のなにが悪い』
 
伊東の言葉が頭に浮かんだ。
 
彼は、楓の妄想癖を否定しないでいてくれた。大袈裟に褒めたりはしなかったけど、そのまま受け止めてくれたのだ。
 
それがどれほどのことだったのか、今はっきりとわかった。
 
もしかしたら、そういう人たちがほかにもいるかもしれないと期待している自分がいる。
 
——それなのに、もとの自分に戻るので、本当にいい?
 
迷う楓に、太田が肩をすくめる。

「やっぱり子リスちゃんは、飲み会は苦手かな?」

「飲みはねー苦手な人結構いるよね。太田が来るとうざいしね。あ、だったら今度私とランチでも……」

「あの!」
 
言うと同時に、勢いよく立ち上がる。
 
いきなりの楓の行動に、ふたりが目を丸くしてこちらを見た。
 
これだけのことでこんなにドキドキするなんて、情けないのひと言だ。
 
飲みに行ったって、ろくに面白いことを言えずに、誘うんじゃなかったとがっかりされてしまうかも。
 
でもこのチャンスと今の気持ちを無駄にしたくない。
 
間抜けな初恋は実らなかった。
 
今もまだ悲しいけれど、それでも彼がおしえてくれたことは、ちゃんと楓の中に残っている。それを胸に自分の足で一歩踏み出してみたい。そんな思いに突き動かされるのを感じながら、楓は拳を握りしめた。

「私、飲みに行きたいです。ぜ、ぜひ、よろしくお願いします!」
 
突然の声をあげた楓に、ふたりは顔を見合わせる。
 
その反応に、楓はやっちゃった、と自分を叱る。
 
飲み会に参加するテンションとしてはちょっと変。
 
変な子誘っちゃったって後悔してるかも……。
 
けれどふたりはぷっと噴き出し、心底おかしそうにしばらく笑う。そしてこちらを見て、口を開いた。

「了解」
「よろしくお願いされちゃうよん」
< 120 / 141 >

この作品をシェア

pagetop