フィクションですよね⁉︎〜妄想女子の初恋事情〜
「メガネを外したところも見てみたいなー、今夜お願いしちゃおうかな? いや〜楽しみだなぁ。午後の仕事も頑張ろっと」
 
そんなことを言いながら、太田はわざとらしくチラリとこちらを見る。
 
彼の視線から目を逸らして、倫は、太田と楓の間になにがあってこうなったのか探ろうとしていた気持ちが急速になくなっていくのを感じていた。
 
楓の相手に、太田はダメだなんて、どの口が言う?
 
本当の自分を徹底的に隠して、周りを騙し見下していた自分より、よっぽど彼の方が楓に相応しいんじゃないか?
 
楓は、透き通った心で周りを見られる稀有な目を持っている。引っ込み思案なところはあるが、いずれはいい出会いもあるだろう。
 
自分なんかよりずっと、いい相手がいるはずだ。

「じゃ、俺、こっちだから」

「……お疲れさまです」
 
信号を渡っていく太田を見ながら、倫は沈む心で、そうだその方がいいと結論を出す。
 
楓には、誠心誠意謝ろう。
 
許せない、しかるべきところへ訴えると言うならば、協力する。
 
そして彼女への気持ちは忘れよう。
 
失恋自体ははじめてだが、別れは何度か経験した。その回数がもう一回増えるだけだ。
 
ちょっとした変化はすぐに慣れる。すぐに過去の出来事になる。
 
ちらほらと降る雪の中、鉛色の空を見上げて、倫は白いため息をついた。
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