フィクションですよね⁉︎〜妄想女子の初恋事情〜
ソルを上下させているのを見て、ひと呼吸置いたのち、普段とはまったく違うことを口にする。
「出来上がってるように見せようと必死だったんだよ。プレゼンって一発勝負だから。緊張しすぎて前の日の夜全然寝れなくてさ、もう開き直って徹夜で練習した。おかげでうまくいったけど、その日は帰ってすぐにスーツのままベッドにダイブ。で気がついたら次の日の朝」
「そ、そうなんですか⁉︎」
心底驚いた様子で後輩が目を丸くした。
その反応に、柄にもなくドキッとする。学生時代にふいに素の自分を見せてしまい、がっかりされた時のことが頭に浮かんだ。
思わず弱気な言葉が口から出る。
「……引いた?」
「全然です! マジかー……や、なんか逆に感動です! 伊東さん、誰に聞いてもすごい人だって言われるから、プレゼンくらい軽くこなせるんだって思ってました。でもそうですよね、なんでもできる人だから成功したんじゃなくて、やっぱり努力の積み重ねなんですよね」
真っ直ぐな言葉が、一瞬怯んだ倫の胸を差した。
「俺もやります。もうやることないって思ってましたけど、なんかまだまだ詰めが甘い気がするし。ありがとうございます!」
「頑張って。……成功を祈る」
今度こそ予定通りの言葉を口にする。
けれどそれは、いつもの好感度を上げるための打算ではなく、心からの言葉だった。
「ありがとうございます」と頭を下げてまたパソコンに向かう後輩を横目に自席にカバンを置く。
そしてそのまま考えた。
どうしてこんな話をしたのだろう?
適度な共感は、イメージ戦略に有効だから、ときどき〝わかるよ〟という言葉は口にする。
けれどどれだけ必死だったかというような、みっともないエピソードは、これまで誰にも話したことがなかったのに。
隠れて必死に努力している姿など、〝憧れだけど絶対に敵わない 伊東さん〟というイメージにはそぐわない。それどころか幻滅される危険性もはらんでいる。
それなのに、なぜそんなことを口したのか……。
口にしたいと思ったのか。
——それはきっと。自分を取り囲む世界が、少し変わったように感じているから。
そのことに思いあたり、ビジネスバッグの持ち手をギュッと握りしめた。
周りにいるのは、自分より無能なバカではなく、不完全で悩みながらも一生懸命頑張っている自分と同じ人間だ。だから……もしかしたら、倫が完璧でなくてもそれでいいと、受け入れてもらえるかもしれない。
そう期待したからだろう。
「出来上がってるように見せようと必死だったんだよ。プレゼンって一発勝負だから。緊張しすぎて前の日の夜全然寝れなくてさ、もう開き直って徹夜で練習した。おかげでうまくいったけど、その日は帰ってすぐにスーツのままベッドにダイブ。で気がついたら次の日の朝」
「そ、そうなんですか⁉︎」
心底驚いた様子で後輩が目を丸くした。
その反応に、柄にもなくドキッとする。学生時代にふいに素の自分を見せてしまい、がっかりされた時のことが頭に浮かんだ。
思わず弱気な言葉が口から出る。
「……引いた?」
「全然です! マジかー……や、なんか逆に感動です! 伊東さん、誰に聞いてもすごい人だって言われるから、プレゼンくらい軽くこなせるんだって思ってました。でもそうですよね、なんでもできる人だから成功したんじゃなくて、やっぱり努力の積み重ねなんですよね」
真っ直ぐな言葉が、一瞬怯んだ倫の胸を差した。
「俺もやります。もうやることないって思ってましたけど、なんかまだまだ詰めが甘い気がするし。ありがとうございます!」
「頑張って。……成功を祈る」
今度こそ予定通りの言葉を口にする。
けれどそれは、いつもの好感度を上げるための打算ではなく、心からの言葉だった。
「ありがとうございます」と頭を下げてまたパソコンに向かう後輩を横目に自席にカバンを置く。
そしてそのまま考えた。
どうしてこんな話をしたのだろう?
適度な共感は、イメージ戦略に有効だから、ときどき〝わかるよ〟という言葉は口にする。
けれどどれだけ必死だったかというような、みっともないエピソードは、これまで誰にも話したことがなかったのに。
隠れて必死に努力している姿など、〝憧れだけど絶対に敵わない 伊東さん〟というイメージにはそぐわない。それどころか幻滅される危険性もはらんでいる。
それなのに、なぜそんなことを口したのか……。
口にしたいと思ったのか。
——それはきっと。自分を取り囲む世界が、少し変わったように感じているから。
そのことに思いあたり、ビジネスバッグの持ち手をギュッと握りしめた。
周りにいるのは、自分より無能なバカではなく、不完全で悩みながらも一生懸命頑張っている自分と同じ人間だ。だから……もしかしたら、倫が完璧でなくてもそれでいいと、受け入れてもらえるかもしれない。
そう期待したからだろう。