フィクションですよね⁉︎〜妄想女子の初恋事情〜
「伊東さんとのキス、私は嫌じゃなかったです。だから本当に大丈夫です」

「な、なら……よかった」
 
ようやく納得してくれて、とりあえずホッとしながら、ん? でもこれ、大丈夫?と心配になる。
 
私の気持ちバレるんじゃ?
 
とはいえ、ホッとした様子の伊東に、楓もホッとした。
 
なぜ彼がいきなり現れたのかは不明のままだが、慌てていて深刻そうな言葉の理由は理解できた。
 
これにて一件落着、と思っていると、伊東が口を開いた。

「楓、もうひとつ話がある」
 
え? まだあるの? と思いながら頷くと、彼はひと呼吸置いてから口を開いた。

「好きだ」
 
そのひと言で、せっかく正常に動き出した楓の思考は、またもやハテナの世界に飛ばされた。
 
え?
 
なに?
 
何が好き?
 
いったいどうしちゃったの?

「楓が好きだ、付き合ってほしい。俺を楓の恋人にしてくれ」
 
真っ直ぐな言葉が、楓のハートをスパーンと射抜く。
 
なにこれ、少女漫画の告白みたい……と思った瞬間、楓はハテナの世界から戻ってきた。
 
ああ、そういうこと!と夢から覚めた気分になる。
 
太田と山口の前で『楓を迎えに来た』と言ったことからここまでの流れがひとつの線で繋がった。
 
そしてあわあわと首を横に振った。

「そこまで、そこまでしていただかなくても」

「は……?」

「こ、告白体験までさせてもらって贅沢な話ですが、これでは太田さんと山口さんに誤解されてしまいます……! 私たちが本当に付き合っていると思われてしまいますよ」
 
恋愛体験の続きをしてくれているのだろうけれど、さすがにやりすぎだ。
 
ヒロインがヒーローとは別の男性とふたりでいる時にヒーローが現れて『彼女は俺のものだ!』と宣言するシチュエーションは、誰もが一度は憧れる。
 
だけど他人を巻き込むのはいただけない。

「まさかそこまでしてくれるなんて、ありがたいです。ありがたいですけど、ああ、どうしよう。噂が広がったら、伊東さんの評判が……」

「待て待て待て、誤解されるって、いったいなにを心配してるんだ?」
 
不可解な問いかけに、楓も質問で答える。

「だってこれ、フィクションですよね……?」

「違う!」
 
全力で否定されて目を丸くする。

「フィクションじゃない。これは俺の本心だ。俺は、楓が好きだ」

「だ、だって、恋人のふりって……」

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