フィクションですよね⁉︎〜妄想女子の初恋事情〜
「ふりをしているうちに本当に好きになったんだ」
 
ふりをしているうちに本当に好きになる。
 
伊東が?
 
まさか、そんなことある?
 
楓の頭は疑問でいっぱいになる。
 
誰とも付き合ったことのない楓ならともかく、経験がある彼が?と思うけれど、早苗の名言を思い出す。
『恋はいつも予想外、気がついたら落ちてるの』
 
それは楓も身をもって実感したところだった。
 
まさかまさか。

「……伊東さんも?」
 
信じられない気持ちのまま呟くと、伊東の表情がふっと緩んだ。

「あ」
 
楓は、口に手を当てる。
 
まずい。これじゃ楓の気持ちがバレれてしまう。
 
あ、でも。もしかして、この状況……バレてもいいのかな?

「ほ、本当に……?」
 
問いかけると、伊東がふわりと笑った。

「本当だ。俺は、楓が好きだ。好きになってしまったんだ」
 
なにこれなにこれなにこれ。
 
見たことがないくらいの甘い笑顔と柔らかい声。
 
なにこの状況⁉︎
 
心臓が身体のあっちこっちにいきなり出現したんじゃないかと思うくらいバクバクどくどくと鳴り出した。
 
顔が真っ赤になっているのが自分でもわかる。
 
フリーズする楓に、伊東が伺うように見た。

「その反応。期待したくなるんだけど、もしかして楓も俺と同じ? だからあの日びっくりして帰ったのか?」
 
脳が身体の機能を司っているというのをこれほど実感したことはない。
 
ただ、そうですと言うだけなのに、頭がパニック状態だから声が出ない。
 
口をぱくぱくさせたあと、口を閉じて、またぱくぱくさせる。
 
やっぱり声が出ないから諦めて今できる精一杯の動作をする。
 
ゆっくりと頷くと、伊東が「うわ」とうめくような声を出して、テーブルに突っ伏した。会社用にキチンと整えられた髪をガシガシとかいている。

「い、伊東さん……?」
 
呼びかけると、身体はそのままで顔だけを上げる。
 
そして破顔した。

「やばい、めっちゃくちゃ嬉しい。俺、こんなに幸せなの、今までの人生ではじめてだ」
 
ズキューン! バキューン!と、第二第三の矢が飛んできて楓のハートに命中し、「う」とうめき声が口から出て、楓もテーブルに突っ伏した。

「どうした? 大丈夫か?」

「……じゃないですよ。もうキャパオーバー、これ以上の情報は入りません」
 
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