フィクションですよね⁉︎〜妄想女子の初恋事情〜
その言葉に楓の胸がドキンと鳴った。
「あー、らしいね。なんか王子っぽくなくなったとかって企画部の子達が騒いでた」
「えーそうなんだ。どのへんが?」
「んー私もよく知らないんだけど、前はあまりプライベートを明かさなかったっていうか、雑談もあまりしてくれなかったのが、最近はよく後輩の子たちと、映画の話したり……。それが庶民的っていうか普通の人だったんだ、みたいなこと言ってたかな」
「私もそんな感じで聞いた。話し方もにこやかで穏やかな感じだったじゃん? それがまぁ、普通にフランクっていうか」
化粧直しそっちのけで盛り上がっている。
「マジかーちょっとがっかり。私、王子さま〜って感じの伊東さんが好きなんだよね」
「いや、私はむしろ逆。親近感湧くっていうか、そっちの方が好きだな〜」
「だね、ちなみに、後輩の男どもからの人気は爆上がりらしい」
ハンカチで手を拭きながら楓は胸を撫で下ろした。
伊東がはっきりと口にしたわけではないけれど、会社での振る舞いに少し変化が見られるのはこうやって耳に入ってきた。
楓から見たら素顔の彼は魅力的。でも外でどう振る舞うか、どうするのが自分にとって一番いいのか決めるのは彼だ。すべてをさらけ出す必要はない。
そこで鏡越しに女性社員のひとりと目が合った。彼女がおや?という表情になり、ドキッとした。
以前の楓なら、瞬時に気配を消しそそくさと退散するの一択だった。
けれど楓は、ひと呼吸置いたのち、お腹に力を入れて会釈をした。
「お疲れさまです」
「あ、経理部の……」
「藤嶋です」
「ああ、藤嶋さん、この前はありがとうございました」
少し前に、業務上で少しやり取りした相手だった。
「説明、わかりやすくて助かりました! 迷惑かけちゃってすみませんでした」
「いえ、なにかあればまたいつでも」
「わーよろしくお願いします」
ぺこりと頭を下げて、トイレを後にした。
全部を変える必要はないけれど、無理のない範囲で、少しずつ。
今はそう思える自分が嬉しかった。
スキップするように会社を出て、角を曲がり裏通りに入る。レトロな喫茶店のドアを押す。
カランカランと鈴が鳴り、中にいた女性店員が振り返る。
「いらっしゃいませ〜、あれ? 今日はおひとりですか?」
その問いかけに、楓の頬が熱くなる。
「えーっと、その……ま、待ち合わせです……!」
そのひと言と楓の表情で、なにかが伝わったようで、彼女はぱぁっと笑顔になった。
「奥の席へどうぞ〜」と明るい声を張り上げた。
今日はこの後予定があるから、コーヒーをオーダーする。運んできた店員が、うずうずしているのに気がついて、少し考えてから、ぺこりと頭を下げた。
「そのせつは、大変お世話になりました」
「そんなそんな! と、いうことはつまり……?」
「お、お陰さまで、正式にお付き合いすることになりました。で、今日が付き合いはじめてから、記念すべき第一回めのデートです」
想いを伝え合ったのが二週間前。あれから伊東の方の仕事が忙しくなり、なかなか会えなかった。ようやく今日、早くあがれそうだという連絡が来たのだ。
「あー、らしいね。なんか王子っぽくなくなったとかって企画部の子達が騒いでた」
「えーそうなんだ。どのへんが?」
「んー私もよく知らないんだけど、前はあまりプライベートを明かさなかったっていうか、雑談もあまりしてくれなかったのが、最近はよく後輩の子たちと、映画の話したり……。それが庶民的っていうか普通の人だったんだ、みたいなこと言ってたかな」
「私もそんな感じで聞いた。話し方もにこやかで穏やかな感じだったじゃん? それがまぁ、普通にフランクっていうか」
化粧直しそっちのけで盛り上がっている。
「マジかーちょっとがっかり。私、王子さま〜って感じの伊東さんが好きなんだよね」
「いや、私はむしろ逆。親近感湧くっていうか、そっちの方が好きだな〜」
「だね、ちなみに、後輩の男どもからの人気は爆上がりらしい」
ハンカチで手を拭きながら楓は胸を撫で下ろした。
伊東がはっきりと口にしたわけではないけれど、会社での振る舞いに少し変化が見られるのはこうやって耳に入ってきた。
楓から見たら素顔の彼は魅力的。でも外でどう振る舞うか、どうするのが自分にとって一番いいのか決めるのは彼だ。すべてをさらけ出す必要はない。
そこで鏡越しに女性社員のひとりと目が合った。彼女がおや?という表情になり、ドキッとした。
以前の楓なら、瞬時に気配を消しそそくさと退散するの一択だった。
けれど楓は、ひと呼吸置いたのち、お腹に力を入れて会釈をした。
「お疲れさまです」
「あ、経理部の……」
「藤嶋です」
「ああ、藤嶋さん、この前はありがとうございました」
少し前に、業務上で少しやり取りした相手だった。
「説明、わかりやすくて助かりました! 迷惑かけちゃってすみませんでした」
「いえ、なにかあればまたいつでも」
「わーよろしくお願いします」
ぺこりと頭を下げて、トイレを後にした。
全部を変える必要はないけれど、無理のない範囲で、少しずつ。
今はそう思える自分が嬉しかった。
スキップするように会社を出て、角を曲がり裏通りに入る。レトロな喫茶店のドアを押す。
カランカランと鈴が鳴り、中にいた女性店員が振り返る。
「いらっしゃいませ〜、あれ? 今日はおひとりですか?」
その問いかけに、楓の頬が熱くなる。
「えーっと、その……ま、待ち合わせです……!」
そのひと言と楓の表情で、なにかが伝わったようで、彼女はぱぁっと笑顔になった。
「奥の席へどうぞ〜」と明るい声を張り上げた。
今日はこの後予定があるから、コーヒーをオーダーする。運んできた店員が、うずうずしているのに気がついて、少し考えてから、ぺこりと頭を下げた。
「そのせつは、大変お世話になりました」
「そんなそんな! と、いうことはつまり……?」
「お、お陰さまで、正式にお付き合いすることになりました。で、今日が付き合いはじめてから、記念すべき第一回めのデートです」
想いを伝え合ったのが二週間前。あれから伊東の方の仕事が忙しくなり、なかなか会えなかった。ようやく今日、早くあがれそうだという連絡が来たのだ。