フィクションですよね⁉︎〜妄想女子の初恋事情〜
わかる、なんかキラキラしてるよな。嶋楓の大きな目は、小さい頃に大切にしていたビー玉みたいに澄んでいて、日の光に透かしていつまでも見ていたいような気持ちに……って、なんでだよ。
 
慌てて倫は、その考えを打ち消した。
 
確かに藤嶋楓の目は綺麗だ。だけどだからってなんなんだ。

「まぁ……そうですね」
 
曖昧に答えると、太田があれ?っと言うように倫を見た。

「んんん? てか王子が女の子の話に食いつくの珍しいよね。やっぱり俺のファン取ろうとしてるだろ」

「いやいやそんな、ちょっと気になっただけで」

「そのちょっとがいつもはないじゃん」
 
そこで太田のスマホが鳴り、ホッとする。

「やべ、俺一回会社に戻らなきゃなんねーんだ。ごめん、先帰るわ」

「了解です。お疲れさまです」
 
藤嶋楓に関する自分自身の情緒の不安定さに釈然としないまま、倫は太田の背中を見送った。
 
入れ替わりに北川が戻ってきた。

「すみません、お待たせしました。あれ、太田さんは?」

「急ぎで連絡が入ったので先に社へ戻られました」

「そうなんですね。私、今日は直帰しようと思うんですけど、伊東さんはどうされます?」
 
倫としてもそのつもりだったけれど、なんとなく彼女からただ聞いているだけ、ではないなにかを感じて一瞬答えに迷う。直帰すると言うのを期待されているような。

「この近くに全国の珍しい地酒が置いてある店があるんですよ。大将が偏屈でネットとか取材とかもお断りだから全然知られてないんだけど、ラインナップがまじで神で、お酒が好きな人連れていくとめっちゃ喜ばれますよ。もしよかったらどうですか?」
 
人脈と情報が命の営業職である倫の弱みを的確についた誘いだ。
 
そういう店は知っておいて損はない。ぜひぜひ知りたいが、場所だけおしえろとはさすがに言えない。
 
いつもなら女性とふたりでの行動は避けるが、この場合は行く価値ありと判断する。メンバー的には恐ろしくダルいけれど。
 
倫はにっこりと笑みを浮かべて頷いた。

「ありがとうございます。……ぜひ」
 
 
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