皇太子妃を公募で決めるなんて聞いてません~見返す為に応募したのに皇太子殿下に心奪われてしまいました~
低く穏やかな声が耳に届き、ふと振り返ると、そこにはアレシオ殿下の姿があった。

彼は当然のように近づき、侍従に馬車の準備を指示しようとしていた。

だが、私は思わず首を横に振っていた。

「いえ、結構です。」

自分でも驚くほど、即座に言葉が口をついて出た。

殿下はわずかに眉を上げたが、それ以上何も言わなかった。

私は怖かったのだ。これ以上、特別扱いされて惹かれていく自分が。

優しくされるたびに、心が浮き立つ。

期待してしまう。

だけど、それが妃選びの過程に過ぎないのなら──そんな気持ち、重ねたくなかった。

だから、私はそっと視線を逸らし、自分の馬車が来るのを静かに待ち続けた。

「なぜだ。」

アレシオ殿下の声は静かだった。

しかしその一言には、明確な疑問と、わずかな寂しさが滲んでいた。

「きっと他の二人なら、喜んで俺に送らせてくれるだろうに。」
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