皇太子妃を公募で決めるなんて聞いてません~見返す為に応募したのに皇太子殿下に心奪われてしまいました~
そう呟いた殿下の声は、苦しいほどに優しかった。

その想いが胸の奥に深く届いて、私は、ただ黙って殿下の腕の中に身を委ねた。

やがて控室の窓から、私の馬車が再び姿を現した。

どうやら一時の暇つぶしを終え、迎えに来たのだ。

「もう、帰らないと……」

私は小さく告げる。

「……ああ」
アレシオ殿下も応じてくれる。

けれど、彼の腕はすぐには解かれなかった。

まるで、このまま時間が止まってしまえばいいと願っているように。

その時──控室の扉がノックされる音が響いた。

「皇太子殿下、お時間です。」

外から聞こえる近衛の声。それでも殿下は沈黙を守った。

「セレフィーヌ嬢の馬車が、すでにお待ちしております」

再びそう告げられた時、ようやく彼はゆっくりと私から体を離した。

その瞳には、寂しさと、名残惜しさと、そしてどこか切ない決意が宿っていた。

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