皇太子妃を公募で決めるなんて聞いてません~見返す為に応募したのに皇太子殿下に心奪われてしまいました~
私は胸をぎゅっと押さえた。

王族としての義務。家格。釣り合い──そんなものに縛られた恋。

「……叶うといいですね。その恋が。」

私の小さな祈りに、アレシオ殿下が優しく微笑む。

「君が祈ってくれたなら、きっと叶うさ。」

静かに風が吹いた。

それはまるで、古い価値観に閉ざされた王宮に、新しい恋の息吹を運ぶ風のようだった。

そしてある日──

アレシオ殿下の私室に泊まった夜、私はふと目を覚ました。

まだ夜も深い。けれどどうしても我慢できず、そっと寝台を抜け出す。

「……静か。」

人の気配のない廊下。だが角を曲がろうとした瞬間、誰かの気配を感じて私は思わず足を止めた。

──アシュトン殿下?

月明かりが差す回廊の片隅に、背の高い青年の影があった。声をかけようとしたその瞬間──

「ん……んんっ……」

微かに、艶やかな吐息が響いた。

「……っ⁉」

私はとっさに柱の陰に身を隠した。
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