皇太子妃を公募で決めるなんて聞いてません~見返す為に応募したのに皇太子殿下に心奪われてしまいました~
あの一瞬に、言葉はいらなかった。

──ああ、きっと。

最終候補に残るのは、エミリア・ロザリンド伯爵令嬢。

そしてマリアンヌ皇女。

あともう一人。誰か。

その“誰か”に私の名前が入っていればいいけれど──

そんな希望が、胸の中で小さく溜息をついた。

外を見れば、いつの間にか小雨が降っていた。

石畳が濡れ、遠くに霞む空。

その雨が、私の心のようだった。

ぼんやりと景色を見つめていたその時。

「雨が降って来たね」

背後から聞き慣れた声がして、私は振り返った。

そこには、アレシオ殿下が立っていた。

もう誰もいないはずの回廊で、ただ私のそばに。

「今日は改めて、君の聡明さを教えられたよ」

微笑んで言うその言葉が、妙に遠く感じた。

それは──慰め。

それとも、ただの儀礼。

いずれにしても、今の私には痛かった。

「ありがとうございます」

やっとの思いでそれだけを返す。

それが、精一杯だった。

胸の奥に、冷たい小雨が降り続いていた。
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