皇太子妃を公募で決めるなんて聞いてません~見返す為に応募したのに皇太子殿下に心奪われてしまいました~
そして、一曲が終わった。

音楽が静かに収まると、大広間に微かな拍手が起こった。

私とアレシオ殿下は、優雅に礼を交わし、静かに距離を取る。

──その時。

「お疲れ様。」

背後からかけられた声に、思わず振り返る。

アレシオ殿下が、私の肩をポンと軽く叩いた。

その手は温かく、強くも優しかった。

「プレッシャーによく耐えた。さすがだ。」

そう言って、殿下は微笑んだ。

柔らかく、でもどこか距離のある笑み。

それを残して、彼はすぐに次の令嬢のもとへ歩き出していく。

(あ……)

私はただ、その背中を見つめていた。

──優しい人だ。
──よく人を見ている人。

私はこの試験を通して、少しずつ分かってきた。

アレシオ殿下は、ただ厳正なだけの人ではない。

プレッシャーの中で踊った私の緊張を、見抜いていた。

だからこそ、その一言をくれた。

けれどそれは、私だけに向けられた特別なものではない。
< 63 / 234 >

この作品をシェア

pagetop