皇太子妃を公募で決めるなんて聞いてません~見返す為に応募したのに皇太子殿下に心奪われてしまいました~
あの人は、誰に対しても思いやりの言葉を忘れない。

たとえその裏に、選ぶべき人を冷静に見極める判断があったとしても──
その優しさは、決して嘘ではないのだと、思えた。

(……やっぱり、あの方は……)

心のどこかが、静かに揺れた。

次にアレシオ殿下が選んだのは、エミリアだった。

「踊って頂けますか?」

殿下は先ほどまでと違い、ほんの少し柔らかい笑みを浮かべていた。

それは試験官としての顔ではなく、まるで一人の男性が、好意を寄せる女性を誘うような表情で。

「喜んで。」

エミリアは迷いなく手を差し出した。

微笑みをたたえ、まるで自分がこの舞踏会の主役だとでもいうように。

──ああ、本当に絵になる。

誰かが小さく息をのんだのが、私の耳にも届いた。

その瞬間、私は気づいた。これはもう、試験ではないのだと。

音楽が流れ始める。

殿下が一歩引き、エミリアを導くようにして、軽やかにステップを踏み始める。
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