皇太子妃を公募で決めるなんて聞いてません~見返す為に応募したのに皇太子殿下に心奪われてしまいました~
「あなたの踊りは、しなやかで美しい。少し、殿下の眼差しが分かった気がします。」

唐突な言葉に、私は思わず彼の顔を見上げた。

「……え?」

「いえ、気にしないでください。ただの従兄の独り言です。」

そう微笑むダグラス殿下の顔はどこか穏やかで、まるで人の心の内を見透かしているようだった。

「試験の舞台で踊るより、ずっと素敵ですよ。今のあなたの方が。」

その言葉は、優しく、そっと胸に沁みた。

試験では見せられなかった、素の私。

緊張も、見栄もない──ただ、一人の女性としての私。

その私を「美しい」と言ってくれた人がいた。

心がふっと緩んだ気がした。

私は、そんなに固かったのだろうか。

試験の間、ずっと。

エミリアの堂々たる態度。

マリアンヌ皇女の余裕すら感じさせる佇まい。

彼女たちは、試験だということを忘れているかのようだった。

いや、きっと“自分の空気”を作り出していたのだ。

選ばれる側ではなく、選ばせる側のように。
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