皇太子妃を公募で決めるなんて聞いてません~見返す為に応募したのに皇太子殿下に心奪われてしまいました~
私は──違った。

ただひたすら、失敗しないようにと気を張って。

試験の雰囲気に、支配されていた。

笑顔も、視線も、言葉も──すべてがぎこちなくなっていた気がする。

「……これじゃ、最終試験には残らないかも。」

そう呟くように思いながら、私は舞踏会の喧騒から離れるように歩いていた。

他の王族や貴族の男性が踊りの誘いをかけてくるけれど、それすらも聞こえないふりをして、私は壁際へと足を向けた。

静かな場所で、少しだけ息を整えたかった。
──だけど。

その瞬間、右手が、ふいにあたたかなもので包まれた。

「……え?」

驚いて振り返ると、そこにはアレシオ殿下の姿があった。

「もう一曲、踊ろう。」

低くて落ち着いた声。

でもその声には、強い意志と、どこか優しい響きがあった。

「……え、でも、もう試験は──」

「試験じゃない。ただ、踊りたいんだ。君と。」
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