皇太子妃を公募で決めるなんて聞いてません~見返す為に応募したのに皇太子殿下に心奪われてしまいました~
なのに──

「嫌だ……」

小さく呟いた言葉は、私の胸の奥に沈んでいく。

アレシオ殿下がエミリアと話しているのが嫌。

微笑みかけているのが嫌。

あの声を向けているのが、嫌。

それはきっと、私が知ってしまったから。

──アレシオ殿下が、優しい人だということを。

──そしてその優しさが、自分の心を温めたということを。

あの夜、手を取られて踊った時。
「さすがだ」と肩を叩かれた時。
「よく耐えた」と言われた時。

それらの言葉が、心に深く残っていた。

……私は、殿下に優しくされることが嬉しかった。

たぶんもう、その時から。

──気づかないふりをしていた、だけで。

ゆっくりと、自分の胸に手を当てた。

まだ名前のつかないこの感情は、何なのだろう。

……もしかして、これが──

「恋?」

自分の声に、胸がぎゅっとなった。

今はまだ、それを確かめる勇気はない。

けれど。
心のどこかで、もう答えは決まっているような気がしていた。

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