皇太子妃を公募で決めるなんて聞いてません~見返す為に応募したのに皇太子殿下に心奪われてしまいました~
その一言で、時が止まったように感じた。

耳に届くはずの周囲の音も、空気の流れさえも、すべてが遠ざかっていく。

ただそこにあるのは、私の手を包む彼の温もりと、まっすぐに向けられた瞳だけ。

確かに、私はアレシオ殿下に心を寄せている。

けれど、それが“愛”と呼べるものなのかは分からない。

ただ憧れているだけかもしれない。

誰よりも誠実に人と向き合い、真摯な態度で妃選びに臨む姿に惹かれていただけかもしれない。

だから私は、しっかりと目を合わせて、小さく頭を下げた。

「申し訳ございません。」

この言葉しか口にできなかった。

愛していると、軽々しく口にすることはできなかった。

その言葉には、もっと確かな覚悟と真実が必要だと思ったから。

嘘であってほしくなかった。

彼の手が、そっと私の指を撫でるように動いた。

その優しさに、ますます胸が苦しくなる。
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