近くて、遠い、恋心
 ずっと義父と母は恋愛結婚だと思っていた。母と義父との結婚はあまりにも突然で、母にとって私は再婚の相談すらしなくてもいい些末な存在なんだと思っていた。――でも、違った。私は、ずっと母から愛されていたんだ。

 パタパタと涙の雫が落ちていく。それは今までに感じたことがないほど温かな涙だった。

「夏菜ちゃん、そして理人。真理子さんの愛が夏菜ちゃんを苦しめ、僕の欲が理人を苦しめてしまった。謝る資格すらないのかもしれない。ただ、これだけは覚えておいて欲しい。真理子さんも、僕も、二人の幸せを願い家族として二人を守って来た。本当の家族にはなれなかったけどね」

 どこか寂しそうに笑う義父に胸がキュッと痛む。でも、理人と寄り添って生きて行くと決めたのだ。
 不安になり理人を見上げれば、安心させるように手を強く握ってくれる。

「父さん、家族の形って一つじゃないだろ。くっついていた方が丸くなる家族もいれば、離れているからこそ、丸くなる家族もいる。今は歪でも、いつか俺たち四人も本当の家族になれる日がくるんじゃないかな」

 理人が笑う。そして、義父も理人の言葉に笑う。

 本当の家族か。
 母がいて、義父がいて、私の隣には夫となった理人がいる。
 理想とはほど遠い歪な家族。でも、そんな未来を夢見てしまう。

「お父さん、母のことよろしくお願いします」
「もちろんだよ。夏菜さん、色々な経験をしなさい。良い経験も、悪い経験も。その経験が真理子さんの本当の気持ちを知る糧となる。その時が、本当の意味で真理子さんが夏菜さんを手離す時だよ」

 今は義父の言葉の意味の半分もわからない。母を理解出来るようになるなんて思えない。でも、信じてみようと思う。一歩踏み出した先にある明るい未来を。
< 29 / 32 >

この作品をシェア

pagetop