売られた令嬢、冷たい旦那様に溺愛されてます
どこか投げやりなようで、それでも本音だった。

助けられたあの夜、名前を呼んでくれたその唇。

優しいキスと、腕の温もり。

──たとえ、“買われた”としても。

「あなたで、よかった。」

その瞬間、クライブの腕がすっと動いた。

湯の中で、彼の身体が寄り添ってくる。

「……クラディア。」

名前を呼ばれたと思った途端、クライブの腕が私の背を引き寄せ、胸に抱きしめられた。

お湯の中で、そっと重ね合うような抱擁。

心の奥の、ひび割れていた場所がじんわりと温まっていくようだった。

ぽたり、と雫が湯の面に落ちた。

それが涙だったのか、湯気のせいだったのか、自分でもわからなかった。

「……私、もう……男を知ってしまったのね。」

小さく呟いた言葉は、浴室の白いタイルに吸い込まれていく。

私は遠くを見つめながら続けた。

「もう……きっと私は、“結婚”なんてできない。」
< 28 / 158 >

この作品をシェア

pagetop