売られた令嬢、冷たい旦那様に溺愛されてます
お礼を口にした私に、叔父は少し笑った。けれどその目元には、涙がにじんでいた。

「いや……いいんだ。似合うよ、そのドレス。」

いつも通りの調子で言ったはずのその言葉も、どこか苦しげだった。

──その時は、まだ信じていた。

私はただ祝われているのだと。

心が少しだけ温まったのも事実だった。

けれど、ふと脳裏をかすめたのは、叶わなかった“もしも”の未来だった。

本当だったら、私は今ごろ婚約者がいて、来年には結婚していたはず。

そうすればきっと、家の財政も安定し、叔父が困った時には資金援助だってできただろう。

でも……現実は違った。

私は、もう誰にも選ばれない“落ちぶれた伯爵令嬢”。

社交界では忘れられた存在で、今では婚約相手の一人も現れない女だった。
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