売られた令嬢、冷たい旦那様に溺愛されてます
だから──私には何もない。

ただ今日、この日を「祝ってくれた」という事実に、すがりたかった。

私はルビーのネックレスを指先でなぞりながら、微笑んで見せた。

たとえそれが、哀れな笑みだったとしても──叔父の目をこれ以上曇らせたくなかった。

「今度の舞踏会で、必ず婚約相手を見つけて──育てていただいた恩に報います」

食事を終えたあと、私はそう口にした。

まっすぐに叔父を見つめ、胸を張って言ったのに、どこか声が震えていたのは自分でもわかっていた。

叔父は何も言わなかった。

ただ静かに目を伏せ、ワイングラスを手に取っただけだった。

限られた令嬢しか出席できない舞踏会。

それに出られること自体が、今の私には奇跡に近かった。

──これが、最後のチャンスかもしれない。

聞けば、舞踏会への招待は年齢が上がるごとに自然と来なくなるらしい。
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