売られた令嬢、冷たい旦那様に溺愛されてます
「俺にはかつて、愛した女がいた。」

不意にこぼれたクライブの言葉に、私は目を見開いた。

「政略結婚だった。もちろん、跡継ぎを設けるための。俺は定期的に彼女を抱いた。それが、公爵家に生まれた者の義務のように思っていた。」

静かに語られる言葉は、どこか遠い記憶を辿るようで──

私は息を呑み、黙って聞き続けた。

「……やがて、妻は妊娠した。」

その言葉に、彼の声がほんの少し震えた。

「だが、妻は──本来、子供を産めるような丈夫な体じゃなかったんだ。」

クライブの顔に浮かぶ苦悶に、思わず私はそっと手を伸ばした。

冷たい頬に触れると、彼は少し驚いたようにまばたきをした。

「……でも、彼女は言った。“あなたの子供だから、どうしても産みたい”と。その時、俺は──初めて、自分が彼女を愛していたと気づいた。」

そこにあったのは、後悔でも罪悪感でもない。

それでもどこか、哀しい色を帯びたまなざし。
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