売られた令嬢、冷たい旦那様に溺愛されてます
「……ふふ、驚かせてやるんだから。」

この秘密が、ふたりの未来を彩る日まで。

私は今日も、針を動かし続ける。

最初は戸惑いながら刺していた針仕事も、今ではすっかり手に馴染んでいた。

この屋敷で私に与えられた役割は、夜ごとクライブの傍にいること──それ以外に何かをするわけでもなく、昼間は時間が余って仕方がなかった。

だからこそ、この刺繍は私にとって“彼のために費やす時間”そのものだった。

ただ、ひとつだけ難点がある。

それは、クライブが突然屋敷に戻ってくること。

「クラディア様、旦那様が帰られます!」

小走りでやってくる侍女の声に、私は慌てて刺繍枠を外し、刺繍糸と共に布を畳んで棚の奥に押し込む。

けれど、毎回それは時間との戦いだった。

針に通したままの糸が引っかかったり、布がうまく畳めなかったり。

あと数秒遅ければ──と、冷や汗をかくこともしばしば。
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