売られた令嬢、冷たい旦那様に溺愛されてます
──これは……願ってもいないチャンス!

心の中で、私は密かに小さくガッツポーズを取った。

「いいのよ。お仕事なら、仕方ないもの。」

微笑んで見せると、クライブは申し訳なさそうに私の髪を一撫でしてから扉の方へ向かう。

「なるべく早く切り上げてくる。夕食までには戻る。」

「うん。待っているわ。」

優しく見送るように手を振ると、クライブは一度だけ振り返り、静かに扉を閉めた。

──今だわ!

扉が完全に閉まると同時に、私は立ち上がり、そっとベッドカバーの隠し場所へと足を向けた。

刺繍枠、針、糸──全部揃ってる。さあ、続きを縫いましょう。

角の模様を仕上げるには、今日が最適なタイミング。

だって、クライブに見つからずに、集中できる数少ない時間なのだから──。

そして私は、棚の奥にしまっていたシーツをそっと取り出すと、刺繍枠をはめた。

布の角には、この地方の伝統──薔薇の模様をあしらうことが慣わしだ。

< 72 / 158 >

この作品をシェア

pagetop