売られた令嬢、冷たい旦那様に溺愛されてます
だって私は、クライブの婚約者でも、妻でもない。

ただ、名も形もない、“側にいるだけの女”なのだから。

それでも私は、まだ、縫うのだろうか。

叶うかどうかも分からない想いを、一針ずつ、薔薇に込めながら──

惨めだった。

自分でも驚くほど、胸の奥が痛んだ。

「お風呂、入ってくるね。」

声が震えないように、必死に笑ったふりをして、私は部屋を出た。

廊下に出た瞬間、足元がふらつきそうになって、壁に手をついた。

涙が込み上げるのをどうしても堪えられない。

──だめだ、もう。

もう、あのベッドカバーに刺繍することはない。

たとえ完成させたとしても、それが二人の寝室に敷かれることは、きっとない。

「……っ」

声にならない嗚咽が、喉の奥からこぼれた。

──何を夢見ていたのだろう。

私は、クライブの婚約者じゃない。妻でもない。

どんなに想っても、どんなに傍にいても──私には“家族になる”資格なんて、初めからなかったのだ。
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