売られた令嬢、冷たい旦那様に溺愛されてます
それなのに、私は何をしていた?

未来を夢見て、愛を夢見て、嫁入り道具なんて──滑稽だ。

それから私は、刺繍をやめた。

毎日続けていた針仕事に、手を伸ばすこともなくなった。

完成させたところで、意味などないのだと気づいてしまったから。

そしてある夜。

ナイトウェアに着替え、髪をほどいて寝室に戻ると、クライブはすでにベッドで横になっていた。

背もたれに寄りかかりながら分厚い本を読んでいるその姿は、いつもの彼だった。

でも、あれ以来――
私は、クライブとの夜にさえ、意味を見いだせずにいた。

形ばかりの妻のように、隣に寝る。ただそれだけ。

心を交わさぬまま、温もりだけを分け合っている気がしてならなかった。

「おかえり。」

クライブが目を上げて、柔らかく笑う。

私は小さく微笑み返して、そっと彼の隣に腰を下ろす。

布団を引き寄せ、身体を包み込むようにくるまった。
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