売られた令嬢、冷たい旦那様に溺愛されてます
そのときだった。

「そういえば、あのベッドカバー……刺繍、出来上がった?」

唐突なその言葉に、私は一瞬、心臓が止まりそうになった。

「そろそろ使えるんじゃないかと思ってさ。あの角の薔薇、すごく綺麗だったよな。」

クライブは無邪気な顔で、まるでプレゼントを楽しみに待つ子供のように言った。

私は視線を外し、かすかに首を横に振った。

「……いいの。あれはもう。」

声が、かすれた。
ベッドカバーはもう使わない。使えない。

けれど、捨てることもできず、あの棚の中にしまったままだ。

クライブが本を伏せ、少しだけ眉を寄せて私を見た。

「本当に?」

そして、私の答えも待たず、立ち上がると、寝室の隅の戸棚に歩み寄っていった。

「クライブ、やめて――」

私の声はか細く、止めるには弱すぎた。

クライブはゆっくりと棚を開け、中にしまっていた布を取り出した。

「……やっぱり、ここにあった。」
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