売られた令嬢、冷たい旦那様に溺愛されてます
「止めてよ。」

震える声でそう言ったのに、クライブはゆっくりと、私の肩からずれた布団を持ち上げて、ベッドカバーを敷いた。

未完成の刺繍。

けれど、隅に咲いた薔薇は、確かに私の手で、一針一針、想いを込めて縫ったものだった。

「俺へのプレゼントだろう。」

クライブは穏やかに笑いながら言った。

「だったら、俺が使ってもいいじゃないか。」

その言葉と同時に、後ろから私を優しく抱きしめてくる。

背中に伝わる体温が、あまりにも優しくて、心の奥に響いた。

「嫁入り道具の伝統の刺繍を施しているって事は、俺との結婚を思っていたんだろう。」

――ずるい。

どうしてそんなふうに、核心を突くの。

私がずっと言えなかったことを、あっさりと口にするなんて。

瞼が熱くなり、次の瞬間、涙が静かに頬を伝っていた。

「クラディア……」

クライブの声が、すぐ耳元で響いた。

「君の結婚の機会を奪ったのは、俺だ。」
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