この音が、君に届くなら
夜。
自室の机に向かっていた澪は、ふとペンを止めて窓の外に目を向けた。

カーテンの隙間から見える夜空は澄んでいて、遠くで犬の鳴き声が聞こえる。
だけど、澪の耳にはそれよりも――今日、音楽室で鳴らした“音”が、ずっと残っていた。

(……合わせたんだ、ちゃんと)

ドラムとピアノ。
それは昨日までの自分なら「無理」だと思っていた組み合わせ。

けれど律の優しいテンポに支えられながら、自然と指は動いていた。
音を出すのが、怖くなかった。

そして、そのあと現れた一ノ瀬くん。

(……聴いてたんだ)

別に怒ってるわけじゃない。けど、なんだろう。
ちゃんと聴かれてたのが、ちょっとだけ恥ずかしい。

でも、「悪くなかった」って言ってくれた。
それだけで、また音を出したくなった。

澪はペンを置いて、机の引き出しを開ける。

取り出したのは、少し古びた五線譜ノート。
兄が使っていたものを、今もこっそり持っていた。

ページをめくり、空白のスペースにペンを走らせる。

(どんな曲がいいかな……三人でやるなら、もう少し明るいやつ)

誰かのことを考えながら曲を作るのは、初めてだった。

でも、それは思っていたより、ずっと悪くない気がした。
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