この音が、君に届くなら
帰り道、澪はイヤホンを耳に差し込んだ。
流れてくるのは、自分が昔作ったインストの曲ばかり。
誰にも聴かせたことのない、ひとりぼっちのメロディたち。

(……バンド、なんて)

知らない誰かと音を合わせるなんて、自分には無理だ。
そう思っていたはずなのに、あの“誘い”が頭から離れない。
まっすぐな言葉。濁さない目。それでも押しつけない距離感。

胸の奥が、少しずつざわついていくのがわかった。

コンビニの前を通りかかったときだった。

「――やっぱり、月島さんだ!」

明るい声に顔を上げると、スポーツバッグを肩にかけた男子が笑顔で駆け寄ってきた。

「びっくりした〜、追いつけてよかった。今日、たまたま同じ方向だったんだよね!」

澪はすぐにその顔を思い出した。

「……桐原くん」

「お、名前覚えててくれた!ちょっと感動」

桐原律。クラスでは誰とでも自然に話せるタイプで、
目立つほうなのに、どこか気取らない雰囲気がある。

澪は軽く会釈だけして、足を止めた。
話しかけられるのは珍しくて、どう反応していいか迷う。

「ねえ、月島さんってさ……ピアノ、弾けるでしょ?」

思いがけない言葉に、また心臓が跳ねた。

(また……)

さっきと同じ問いかけ。だけど今度は、あたたかい空気をまとっていた。
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