喜びをあなたと一緒に
最初は、依頼者に満足してもらえるように打ち合わせを重ねてイラストを描き、要望と合わないところがあれば何度だって描き直していた。
時間も労力もかかるが、完成したイラストを依頼者が喜んでくれるのが嬉しかった。
しかし、経営戦略部の部長が変わり、依頼者が満足のいく作品を作り込むという方針から、1枚の値段を安くして、その分、契約数を増やすという方針に変化したことで、依頼者と直接顔を合わすことが減り、メールやオンラインミーティングが中心となった。
作品を作り込み、依頼者の要望に合わせてリテイクを重ねることもあまり出来なくなり、私は、次第にやりがいを見いだせなくなったのだ。
依頼者と直接顔を合わせて、温度感を感じながら、依頼者に心から喜んでもらえる絵を描きたいが、出来ない現状に葛藤を抱いた。
社員なのだから、会社の方針には従わないといけない。それは分かっている。
だからこそ、この仕事をこれからも続けていくのか、他の会社に転職するべきか、でも他の会社に転職したとしてもまた方針の変化があるかもしれないと悩んだ。
そのうちに、そもそも自分は、勧められるがままに就職したイラストレーターという仕事をずっと続けたいと思っているのか。イラストを描く仕事は他にもあるし、他の職種も考えるべきなのか。でも、自分がどんな仕事に就きたいのかもよく分からないし、とりあえずは続けた方がいいのではないか。と、いろんな考えが出てきて自分がどうしたいのかが分からなくなってしまった。
それでも、このまま立ち止まっているのは良くないと思い直し、現在の体制の中で出来ることをやってみることにした。
メールやオンラインでの打ち合わせ回数を増やし、リテイクの要望があれば、依頼者が満足するまで密かにリテイクを行うようにした。
その分、以前のようなやりがいを、少し取り戻すことはできたが、残業が増えたため段々疲れていき、精神的にも疲弊していった。
そんなある日、上司に呼び出されたのだ。
上司から、最近契約件数が減っていることと、オンラインでの打ち合わせが増えたことを指摘された。
時間がかかる分を残業や持ち帰りで補って、どうにか他の社員と契約数が変わらないように頑張ったが、ダメだった。
その日から、気力が沸いてこなくなった。
もともと、自分の感情が絵に現れやすい私は、暗くてどんよりとしたイラストしか描けなくなった。
当然、そんなイラストでは許可が下りる訳もなく、修正を繰り返す内に、アイデアすら出てこなくなった。
描こうとすればするほど、頭が真っ白になってしまう私は、イラストレーターとして使い物にならず、補佐業務へと回されたのだった…。
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