小鳥の爪―転生寵姫は2番目の恋に落ちる―
第21話 皇帝と皇后の確執(5/5)


 メイレンが嫁いできた夜のことを、ゼフォンは嫌でも忘れられなかった。

 淡い香りと、上品な笑顔。言葉遣いも、物腰も、申し分がなかった。さらに、剣術をたしなみ、馬を駆り、戦術に明るい――そんな女は、他にいなかった。

 最初、ゼフォンは政《まつりごと》の助けになればと、軽く考えてもいた。
 実際、即位を巡る皇弟との争いで、メイレンは大きな役割を果たした。リーハイの軍が背後にいたとはいえ、臣下の篭絡《ろうらく》や情報戦にも、メイレンの助言があった。

 当時のゼフォンは、それを頼もしく感じていた。
 だから、期待してしまったのだ。――彼女となら、手を取り合って国を支えていけるだろう、と。

 だが、それは誤算だった。
 メイレンは、毒を包んだ絹だったのだ。

 ユン家粛清の件は、まだ“偶然”と見なせた。だが、ラン家の政敵が立て続けに失脚し、都合よくラン家が勢力を増していった。
 やがて、ゼフォンの中にある疑念が湧いた。

 ――ラン家は玉座を狙っている。

(あの女が、ここまで野心にまみれていたとは)
 自分の目が節穴だったことが、ゼフォンには腹立たしかった。
 だが、即座に廃后はできない。ラン家の兵が、都の要所をすでに押さえていたからだ。一歩間違えれば、内乱が起こる。
 だから、ラン家を警戒しつつ、行動を起こすときを慎重にうかがっていた。

 ゼフォンは誓った。
(二度と後宮を、政《まつりごと》に関わらせぬ)

 かつて、ある臣下が複数の若手官僚と、皇弟派の復活を狙っていたという疑いがあった。
 ゼフォンは、その者をすぐに処分した。そして、後宮にいた彼の姪の妃もまた、冷宮へ送った。
 たとえ画策に加担していなくとも、“血”は連帯責任と見なした。

 メイレンの一件が、ゼフォンへ教えてくれたのだ。
 女であっても野心を持ち、やがて玉座を侵す、と。



 ゼフォンは頭を振って、忌まわしい記憶を追い払った。
 それから、チャオ内侍に命じる。
「ミアルに密かに伝えよ。カナリアから――……」

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